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新潟地方裁判所 昭和30年(行)16号 判決

原告 安中賢太

被告 上江土地改良区

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告土地改良区が昭和三十年一月二十日別紙記載の事項について可決した決議を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、「(一)被告は土地改良法に基き昭和二十六年一月に設定された土地改良区であつて、原告は昭和二十六年三月より昭和三十年三月十七日迄の間被告土地改良区の理事並に理事長であつた。(二)被告は昭和三十年一月二十日総代会を開催し、別紙記載の事項についてこれを可決する決議(以下本件決議と称する)をした。(三)しかしながら右総代会は昭和三十年一月十四日附で被告土地改良区理事長山田勝蔵名義を以て招集されたものであるが、当時右山田は理事長に就任しておらず、理事長であつた原告に諮ることなしに、理事長名義を冒用して招集したものであるから、右招集手続は被告土地改良区の定款第十三条、第三十六条、第三十七条の規定の趣旨に反する違法のものであつて、かゝる違法な招集手続による総代会において為された本件決議もまた違法といわなければならない。仍つて原告は被告の同決議により被告土地改良区の理事長としての職務執行の権限を違法に侵害されたから、これを違法な行政処分として、その取消を求めるため、本訴に及んだ」と述べた。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、「原告主張の請求原因事実中前記(一)記載の事実のうち、原告が昭和三十年三月十七日迄被告土地改良区の理事並に理事長であつたとの点は否認し(原告は昭和二十九年十一月十五日の総代会において理事を解任されているのであつて(従つて理事長も当然解任)、同年十二月十八日山田勝蔵が理事の互選を以て理事長に就任したものである)、その他の点は認める。同(二)記載の事実は認める。同(三)記載の事実のうち、昭和三十一年一月十四日附で被告土地改良区理事長山田勝蔵名義を以て総代会が招集されたことは認め、その他の点は否認する。」と述べた。

理由

原告の本訴請求は要するに、原告は被告の本件決議によりその理事長として職務を執行し得べき権限を違法に侵害されたから、これを違法な行政処分として、その取消を求めるというに在る。従つて原告が本件決議により違法に侵害されたと主張するものは、原告個人の、いわば市民的な権利又は利益ではなくて、被告土地改良区の一機関である理事長としての職務執行の権限であるというに外ならない。しかしながら、およそ行政処分の取消変更の訴が許されるのは、当該処分が単に違法であるというに止まらず、特段の法律上の規定のない限り、その取消を求める者において、特にその個人の市民的な権利又は利益の侵害を蒙つた場合に止まるものと解すべきであるところ、本件のような訴は、特にこれを認める法律上の規定も存しないから、許されないというべきである。仍つて原告の本件訴は不適法として却下することゝし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 真船孝允)

(別紙省略)

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